


新規事業の開発(BizDev)において、ユーザーインタビューは顧客の潜在ニーズ(インサイト)を発掘するための強力な手法です。顧客が「なぜその行動を取るのか」を構造的に捉える枠組みとしては、JTBD(Jobs-to-Be-Done)もあわせて押さえておくとよいでしょう。しかし、多くの現場では「顧客の本音を引き出せない」「想定通りの当たり障りのない回答しか得られない」という課題に直面しています。
この問題の大部分は、インタビューの初期段階におけるラポール(信頼関係)の形成不足に起因します。顧客が心理的安全性を感じていない状態では、表面的な意見や、インタビューの場を取り繕うための「建て前」しか語ってくれません。本記事では、BizDevに特化したユーザーインタビューにおいて、短時間で深いラポールを形成し、実務に直結する一次情報を引き出すための具体的なステップとテクニックを解説します。
インタビュー中の振る舞い以上に重要なのが、事前の設計と準備です。読者のみなさまが明日から実践できるよう、準備段階で押さえるべき3つのポイントを整理しました。
インタビュー対象者(インタビュイー)のプロフィールや、B2B(企業向け)事業であればその企業の事業内容、直近のプレスリリースには必ず目を通します。相手のドメイン知識(業界知識)を理解している姿勢を示すことで、「このインタビュアーは話が通じる」という信頼感が生まれます。
オンラインの場合:カメラの画角、照明、背景音に配慮します。また、インタビューの録音・録画の許可は、当日の冒頭だけでなく、事前にメールなどで同意を得ておくのが鉄則です。
対面の場合:机を挟んで真正面に座るのではなく、L字型(90度の角度)になる配置を選ぶと、心理的な圧迫感を軽減できます。
インタビューの目的は、自社サービスを褒めてもらうことでも、ユーザーの行動の正しさを評価することでもありません。あくまで「ユーザーの現状と困りごとを深く理解する」というスタンスを、インタビュアー自身が明確に持っておく必要があります。この認知の歪み(バイアス)を排除する準備が、共感的な傾聴の土台となります。傾聴そのものの型はアクティブリスニングの実践法で詳しく整理しています。
当メディアの過去インタビュー『「あえて専門家にならない」エンジニア出身の事業責任者が語る、顧客起点のプロダクト』でも語られている通り、真の顧客起点に立つためには「作り手側の先入観や専門知識をあえて横に置き、相手と同じ目線に立つ姿勢」も欠かせません。インタビュー前には「教わる立場」として自身のスタンスをチューニングしておくことが、自然なラポール形成へとつながります。
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インタビューの成否は、開始直後の5分間で決まります。警戒心を解き、本音を話しやすい空気を作るための具体的な手順です。
まずは時間を割いてくれたことへの感謝を伝えます。その上で、インタビューの目的が「正しい・間違いの回答はありません。〇〇さまの普段の業務の実態を教えていただき、今後の製品開発の参考にしたい」ということであると説明しましょう。これによって、「うまく答えなければならない」という心理的負担を解消できます。
インタビュアー自身がどのような人間で、なぜこの事業に取り組んでいるのかを1〜2分で短く話します。
具体例: 「私はもともと、営業現場で顧客管理に苦労した経験があり、今の商談管理ツールの開発に携わっています。今日は、〇〇さまが日々感じられているリアルな課題をぜひ教えてください」
いきなり「どんな課題がありますか?」と抽象的な質問をしてはいけません。「現在の部署に異動されてから何年目ですか?」「普段はどのようなスケジュールで業務を進められていますか?」など、考えずに事実を答えられる質問からスタートします。小さな「回答の成功体験」を積み重ねることで、発言への心理的ハードルが下がります。質問項目そのものの設計には6W3Hのような枠組みが役立ちます。
ラポールが形成され始めたら、本論へと移行します。ここでは、表面的な言葉の奥にある「本音」を掴むためのコミュニケーション技術が必要です。
相手の話すスピードやトーンに合わせる手法をペーシングと呼びます。また、相手が使った特徴的なキーワードをそのまま使ってオウム返し(バックトラッキング)を行います。
NG例:相手「業務がいつもカツカツで…」 → インタビュアー「リソースが不足しているのですね」(専門用語への勝手な言い換えは、距離感を生みます)
OK例:相手「業務がいつもカツカツで…」 → インタビュアー「業務がいつもカツカツな状態なのですね。具体的にどの業務が…」
ユーザーが言葉に詰まったとき、インタビュアーが焦って次の質問を投げかけてしまうのは典型的な失敗パターンといえます。沈黙は、ユーザーが過去の記憶を呼び起こしたり、感情を言語化しようとしたりしている「熟考のサイン」なのです。最低でも3〜5秒は静かに待ちます。沈黙の後にこそ、価値のある一次情報が語られるケースが非常に多いです。
ユーザーの運用方法が非効率に見えたり、自社製品への誤解があったりしても、決してその場で訂正や反論をしてはいけません。「なぜそのような運用に至ったのか」の背景(コンテキスト)にこそ、BizDevが捉えるべき真のニーズが隠されています。
あるSaaS(サービスとしてのソフトウェア)の新規事業開発における、ラポール形成の有無が検証結果を分けた具体的な事例を紹介します。なお、検証が事業化まで進まない構造的な要因はなぜPoC止まりで終わるのかで整理しています。
A氏は、用意した20問の質問項目を順番に消化することに集中してしまいます。ユーザーが「最近、チームのモチベーション管理が難しくて」と漏らしたにもかかわらず、A氏は「なるほど。では、次の質問ですが、現在のツールの利用頻度は…」とスルーしてしまったのです。結果として、競合製品でも代替可能な表面的な機能要望しか集まらず、プロダクトの差別化に失敗することとなりました。
B氏は導入部分でユーザーの苦労に深く共感し、「業務の中で一番ストレスを感じる瞬間はいつですか?」と問いかけます。それに対してユーザーは「実は、上司への週次報告書の作成に毎週3時間かかっていて、それが本当に苦痛で…」という本音を吐露しました。
この「報告書の作成負担」という強烈なペイン(痛み)を発見できたことで、B氏のチームはプロダクトの方向性を「データ蓄積ツール」から「報告書自動生成機能付きマネジメントツール」へとピボット(方向転換)し、PMF(プロダクトマーケットフィット)を達成したのです。
ユーザーインタビューにおけるラポール形成は、単なる「仲良くなるための雑談」ではありません。顧客の頭の中にあるリアルな不満や、言語化されていないニーズを安全に引き出すための「事業開発のインフラ」です。明日からのインタビューでは、以下の3点を意識して臨んでみてください。
顧客との間に築かれた強固なラポールは、AIによる市場分析では決して辿り着けない、あなただけの強力な一次情報をもたらしてくれるはずです。
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