


リモートワークが定着したいま、海外を中心に静かに広がっているのが、オーバーエンプロイメント(Overemployment)という働き方です。ひとりの人が、複数のフルタイムの仕事を同時に、しかも多くは会社に知らせずに掛け持つ——一見きわどいこの現象は、単なる不正の話ではなく、働き方と労働力のあり方が大きく変わりつつあることの表れでもあります。本記事では、オーバーエンプロイメントとは何か、なぜ広がっているのか、企業と個人それぞれのリスク、そして企業がこの時代にどう備えるべきかを、事業と組織の視点から解説します。
オーバーエンプロイメント(Overemployment)とは、ひとりの人が複数のフルタイムの職に同時に就き、それぞれの雇用主にはその事実を知らせずに働く状態を指します。日本語にすれば「多重就業」や「過剰雇用」と訳されます。
一般的な副業・兼業が、本業を持ちながら空き時間に別の仕事をする「本業+α」の形であるのに対し、オーバーエンプロイメントは複数のフルタイムを並行して抱える点、そして多くの場合それを雇用主に秘密にしている点に特徴があります。
この働き方は、リモートワークの普及によって「働いている場所や時間が見えにくくなった」ことを背景に、主に米国のIT・ホワイトカラー層で広がり、専用のオンラインコミュニティも生まれるほど、ひとつの現象として認知されるようになりました。
背景には、3つの変化があります。
1つ目は、リモートワークの定着です。出社が前提だった時代には物理的に不可能だった掛け持ちが、在宅・フルリモートの広がりによって現実的になりました。成果さえ出せば、どこで何時間働いているかが見えにくくなったのです。
2つ目は、成果主義・ジョブ型雇用の浸透です。労働時間ではなく成果で評価される働き方が広がると、「決められた成果を出せば、残りの時間で何をしてもよい」という発想が生まれやすくなります。
3つ目は、経済的な動機とキャリアの不安定さです。物価の上昇や将来への備え、あるいは一社への依存を避けたいという意識から、収入源を複数持とうとする人が増えています。この点では、ひとりで複数の事業や役割を掛け持つソロプレナーのような自立志向とも、根の部分でつながっています。
オーバーエンプロイメントは、副業やパラレルキャリアと混同されがちですが、明確な違いがあります。
副業やパラレルキャリアは、多くの場合、会社に申告し、就業規則の範囲内で行われる「公認された」複数就業です。本業と副業の主従関係もはっきりしています。
一方オーバーエンプロイメントは、複数の仕事がいずれもフルタイムであり、かつ雇用主に知らせないまま並行して行われる点で一線を画します。つまり、両者を分けるのは「掛け持ちかどうか」ではなく、フルタイムの並行と申告の有無という2点です。この違いを理解しておくことが、企業が自社のルールを整理するうえでの出発点になります。
オーバーエンプロイメントは、企業にとって次のようなリスクをもたらします。
1つ目は、情報漏えいと利益相反です。社員が競合他社を含む複数の企業に同時に属していれば、機密情報が意図せず流出したり、利益が相反したりする恐れがあります。
2つ目は、生産性とコミットメントの低下です。注意やエネルギーが複数の仕事に分散すれば、本来期待される成果や、チームへの貢献が損なわれる可能性があります。
3つ目は、就業規則・契約違反の問題です。多くの企業では、専業義務や競業避止を就業規則で定めています。無申告のフルタイム掛け持ちは、これらに抵触しうる行為です。
ただし注意したいのは、これらのリスクは「隠れて行われる」ことに起因する部分が大きいという点です。裏を返せば、透明性を確保できれば管理可能なリスクに変えられる、ということでもあります。
オーバーエンプロイメントは、働く個人にとってもリスクをはらみます。
まず、契約違反による解雇や信用の失墜です。発覚すれば、複数の職を一度に失いかねません。次に、過重労働による健康リスクです。フルタイムを並行すれば、労働時間は容易に限界を超えます。さらに、キャリアの分散という問題もあります。目先の収入は増えても、どの領域でも専門性が深まらず、長期的なキャリアの軸を失う恐れがあります。
一方で、この現象が示す本質を見落としてはなりません。オーバーエンプロイメントの広がりは、「ひとりの人材が持つ能力を、一社だけが抱え込む時代は終わりつつある」という変化の裏返しでもあります。問題は掛け持ちそのものではなく、それが「隠れて」行われざるを得ない点にあります。ならば、企業の側から堂々と複数の組織に貢献できる仕組みを用意するという発想も成り立ちます。
オーバーエンプロイメントの広がりに、企業はどう備えるべきでしょうか。
第一に、就業規則と評価のあり方を見直すことです。何を禁じ、何を認めるのかを曖昧なままにせず、時間ではなく成果で貢献を測る仕組みへと整えていく必要があります。
第二に、そして最も重要なのは、優秀な人材の力を「一社で抱え込む」前提を手放すことです。フルタイムで一人を丸ごと採用する以外にも、専門人材に必要な時間だけ関わってもらう選択肢があります。経営機能を部分的に借りるフラクショナル・エグゼクティブ(フラクショナルCxO)や、正社員採用だけに頼らず労働力を設計するWDO(労働力設計の外部支援)は、まさにこの発想に立っています。
隠れた掛け持ちがリスクになるのは、それが「見えない」からです。企業が最初から、優秀な人材と複数の組織が透明な形でつながれる仕組みを用意すれば、オーバーエンプロイメントが抱える問題の多くは、むしろ健全な労働力活用へと転換できます。
オーバーエンプロイメント(Overemployment/多重就業)とは、ひとりの人が複数のフルタイムの職に、雇用主に知らせないまま同時に就く働き方を指します。リモートワークの定着、成果主義の浸透、経済的な動機を背景に、主に海外のホワイトカラー層で広がってきました。企業には情報漏えいや利益相反、生産性低下といったリスクがあり、個人にも解雇や過重労働のリスクがあります。しかしその本質は、「優秀な人材を一社が丸ごと抱え込む時代の終わり」を映してもいます。だからこそ企業に求められるのは、隠れた掛け持ちを罰することではなく、透明な形で複数組織に貢献できる仕組みを整えることです。talentalは、フラクショナルな専門人材の活用やBizDev領域に特化した外部人材の起用を通じて、「一社で抱え込まない」労働力設計を伴走支援しています。優秀な人材の力をどう確保し、活かすかに悩んだときは、ぜひ一度ご相談ください。
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