


人手が足りない、専門スキルを持つ人材が採れない——多くの企業がこの課題に直面しています。しかし、その解決策は必ずしも「新しく採用する」ことだけではありません。近年、海外のHR領域で注目を集めているのが、クワイエットハイヤリング(Quiet Hiring:静かな採用)という考え方です。新規に人を雇わず、いま社内にいる人材のスキルを引き出し、配置し直すことで必要な戦力を確保する。本記事では、クワイエットハイヤリングとは何か、なぜ今注目されるのか、そして自社で実践する際のポイントを、事業開発の視点から解説します。
クワイエットハイヤリング(Quiet Hiring)とは、新たに人を雇い入れることなく、既存社員のスキル活用や配置転換、業務委託人材の機動的な起用によって、組織が必要とするスキルや戦力を確保する取り組みを指します。直訳すれば「静かな採用」です。
この言葉は、コロナ禍以降に広まった「クワイエットクイッティング(静かな退職:与えられた最低限の仕事しかしない働き方)」への対比として、米国の調査会社ガートナーが2023年の重要トレンドとして挙げたことで一気に広がりました。
ポイントは、「採用」という言葉を使いながら、実際には外から人を増やさないという点にあります。人員を増やさずに、いま組織の中にある能力を引き出し、最も必要な場所へ振り向ける。それがクワイエットハイヤリングの本質です。
背景には、大きく3つの変化があります。
1つ目は、採用市場の厳しさです。事業開発やDX、AI活用といった成長領域では、必要なスキルを持つ人材が市場全体で不足しており、正社員として採用しようとしても、なかなか出会えず、戦力化にも時間がかかります。
2つ目は、コスト意識の高まりです。景気の不透明感が続くなかで、安易に人員を増やすのではなく、いまいる人材の力を最大限に引き出したいと考える企業が増えています。
3つ目は、スキルの陳腐化のスピードです。技術や事業環境の変化が速く、採用時点で最適だったスキルセットも、数年で価値が変わります。だからこそ、外部から補充し続けるより、社内で継続的にスキルを再配置していく発想が求められるようになりました。
クワイエットハイヤリングは、もともとクワイエットクイッティング(静かな退職)という言葉への「返し」として登場しました。
クワイエットクイッティングが「従業員が、契約された範囲の仕事しかしなくなる」という従業員側の動きだったのに対し、クワイエットハイヤリングは「企業が、追加の採用をせずに既存のリソースから戦力を引き出す」という企業側の動きです。
両者はコインの裏表の関係にあります。従業員が役割を絞り込む一方で、企業は限られた人員から成果を最大化しようとする。この緊張関係のなかで、いかに社員の意欲を保ちながらスキルを再配置できるかが、クワイエットハイヤリングを機能させる鍵になります。
クワイエットハイヤリングは、次の4つの手法を組み合わせて実践されます。
1つ目は、既存社員の配置転換(社内異動)です。成長領域や人手が足りない部門へ、社内の人材を戦略的に振り向けます。
2つ目は、リスキリング(学び直し)による社内育成です。既存社員に新しいスキルを習得してもらい、これまでとは異なる役割を担えるようにします。
3つ目は、役割の再設計(ジョブの組み替え)です。一人ひとりの職務内容を見直し、より付加価値の高い業務へシフトさせます。
4つ目は、業務委託・外部専門人材の機動的な起用です。正社員として雇うのではなく、必要なスキルを必要な期間だけ外部から補います。これは、正社員採用だけに頼らず労働力を設計するWDO(Workforce Design Outsourcing/労働力設計の外部支援)の発想とも重なります。
自社でクワイエットハイヤリングに取り組むなら、次の4つのステップで進めるのが有効です。
ステップ1は「スキルの棚卸し」です。まず、事業を前に進めるためにいま何のスキルが不足しているのか、そして社内にどんなスキルが眠っているのかを可視化します。
ステップ2は「優先順位づけ」です。不足しているスキルのうち、どこを最優先で埋めるべきかを、事業インパクトの大きさから判断します。
ステップ3は「調達手段の選択」です。そのスキルを、配置転換で埋めるのか、リスキリングで育てるのか、外部人材で補うのかを決めます。ここで「必ず新規採用する」という前提を一度外すことが、選択肢を広げます。
ステップ4は「動機づけと処遇の設計」です。新しい役割を担う社員が納得して力を発揮できるよう、報酬やキャリアパス、評価のあり方をあわせて設計します。ここを疎かにすると、社員の負担感だけが増え、静かな退職を招きかねません。
クワイエットハイヤリングが広がる時代に、経営や事業開発の担当者に求められるのは、「人を採るか・採らないか」の二択を超えて、組織が持つスキルをどう再配置するかという視点です。
大切なのは、これがコスト削減のための「安上がりな採用の代替」ではないということです。むしろ、社員一人ひとりの可能性を引き出し、成長領域へ人を動かしていく、前向きな組織戦略として捉えるべきものです。
同時に、社内リソースだけでは埋められないスキルも必ず存在します。その場合は、外部の専門人材や、経営機能を部分的に借りるフラクショナル・エグゼクティブ(フラクショナルCxO)といった選択肢と組み合わせることで、社内外を横断した最適な戦力配置が可能になります。
クワイエットハイヤリング(Quiet Hiring)は、新規採用に頼らず、既存社員の配置転換・リスキリング・役割の再設計・外部人材の機動的な起用によって、組織に必要なスキルを確保する新しい発想です。採用難やコスト意識の高まり、スキルの陳腐化が進むなかで、「いる人材の力を引き出し、最も必要な場所へ振り向ける」視点は、規模を問わずあらゆる企業にとって有効です。とりわけ、事業開発やDXといった成長領域では、社内リソースの再配置と外部の専門人材の活用をどう組み合わせるかが成否を分けます。talentalは、BizDev領域に特化した外部人材の活用と、AIを起点とした組織戦略の支援を通じて、企業のスキル調達と労働力設計を伴走支援しています。新しい事業や成長領域の推進で「必要な戦力をどう確保するか」に悩んだときは、ぜひ一度ご相談ください。
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