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中堅・中小企業が次の価値を生み出すために。「枠の外」に目を向けるという選択

中堅・中小企業には、長年培ってきた技術や顧客との信頼関係、地域に根ざした取り組みなど、自社でもまだ気づいていない価値が眠っています。一方で、その価値が言葉にならず、社外に伝わっていないことで、価格競争に巻き込まれてしまう企業も少なくありません。

そうした中堅・中小企業の価値を発見し、広報し、進化させるための支援を続けているのが、一般社団法人企業価値協会です。同協会では、企業が持つ独自性やユニークネスを「特徴的価値」と捉え、認定制度や広報支援などを通じて、企業価値の発信を支援しています。

では、中堅・中小企業が自社の価値を見つけ、次の成長につなげていくためには何が必要なのでしょうか。

同協会で代表理事を務める武井 則夫(たけい のりお)さんに、学生時代の原体験、これまでのキャリア、企業価値協会設立の背景、そして「枠の外」に目を向けることの大切さについて話を伺いました。 

目次

ビジネスの世界に憧れた、高校時代のニューヨーク体験

武井さんの原体験のひとつに、高校3年生の夏休みに訪れたニューヨークでの体験があります。東京・青梅の自然豊かな地域で育った武井さんにとって、ニューヨークは強い憧れのある場所でした。

高校2年生でお母さまを亡くし、自分の将来について考える時期でもあったなか、ニューヨークで見た景色は、その後のキャリアにもつながる大きな刺激になったといいます。 

高校3年生の夏休みに、親戚の家にステイするためにニューヨークへ行きました。

東京といっても、青梅の先にある無人駅のようなところで育ったので、ニューヨークにはすごく憧れがありました。昼間はひとりでマンハッタンに行ったり、SOHOに行ったりしていましたね。

そのとき、親戚が勤めていたソニーのニューヨーク支社のオフィスにも遊びに行かせてもらいました。エレベーターが上がって扉が開いた瞬間、セントラルパークが一望できました。

その景色を見て、「ビジネスの世界ってかっこいいな」と思ったんですよね。

このニューヨークでの体験は、武井さんにとって、ビジネスの世界に目を向ける大きなきっかけになりました。 

中小企業のオーナー社長たちと出会い、商売の面白さに触れた

大学では商学部に進学し、より現場に近い「商売」への関心を深めていった武井さん。その後のキャリアに大きな影響を与えたのが、大学時代に中小企業の経営者向けセミナーを手伝った経験でした。

大学の授業だけでは触れることのなかった、オーナー社長たちのリアルな商売の世界。その出会いが、武井さんの中にあった関心をさらに強めていきます。

大学は商学部に進みました。マクロな経済動向よりも、ミクロ経済のような、より現場に近い「商売」を学びたいという思いが強かったですね。

その後、大学のスキーサークルで出会って付き合うようになったのが、今の妻です。妻の父が日本経営合理化協会の創業者で、「中小企業の社長向けセミナーの受付などを手伝いなさい」と言われたことがきっかけでした。

実際にセミナーを手伝いに行くと、いろいろな経営者が来ていました。そこで触れたのが、中小企業のオーナー社長という、大学ではあまり学ばない商売の世界です。

それまで大学で学んでいた経済とは違う、商売の生々しさや経営者の熱量がありました。その経験を通じて、「中小企業は面白そうだな」と感じるようになりました。

大学時代に中小企業経営者の世界に触れた武井さんは、卒業後、まず大企業の仕組みを経験するために三菱レイヨン(現:三菱ケミカル)へ入社します。

大企業での経験を経て、中小企業支援の現場へ

三菱レイヨンで大企業の仕組みを経験した武井さんは、その後、日本経営合理化協会へ移ります。セミナー企画を担当しながら、経営者向けの社長塾にも関わるようになり、中小企業の経営者と向き合う日々の中で、コンサルタントとしての歩みを進めていきました。 

大学時代に中小企業の世界に触れて、「やはり面白そうだ」と感じていました。ただ、最初からその世界に入るのではなく、一度は大きい会社の歯車になる経験をしておきたいと思い、三菱レイヨンに入社しました。

三菱レイヨンで2年ほど働いた後、日本経営合理化協会事業団、いわゆる合理化協会に移りました。そこではセミナーの企画をやりながら、コンサルタント業にも関わるようになります。

本格的にコンサルタントとして仕事を始めたのは29歳の頃です。経営者向けの社長塾で、最初はアシスタント講師としてスタートしました。

大企業と中小企業の両方を経験する中で、武井さんは経営者の近くで企業の成長を支える仕事へと軸足を移していきました。

せっかくの価値が、伝わっていない

2009年に株式会社リアルMを設立し、コンサルタントとして独立した武井さんは、中堅・中小企業の支援に取り組む中で、ある課題を強く感じるようになります。

それは、外から見るとすばらしい価値を持っているにもかかわらず、企業自身がその価値を十分に自覚できていないことでした。自覚できていないから、言葉にできない。言葉にできないから、顧客やステークホルダーにも伝わらない。結果として、価格競争に巻き込まれてしまう企業も少なくなかったといいます。

2009年に独立し、中堅・中小企業のコンサルティングを行うようになりました。顧問先企業の事業や商品の話を聞いていると、「これはすごい」と思うことがたくさんありました。

ところが、その価値を自分たちでは自覚していないケースが多くありました。外から見るとすごいのに、本人たちは認識していない。そうすると、当然うまく伝えられません。顧客やステークホルダーにも届いていませんでした。

その結果、価格競争にさらされている企業も多かった。本当は独自の価値があるのに、それが業績に反映されていない。非常にもったいないと感じました。

ただ、一社一社を支援していても限界があります。どうせなら、日本全国にこの考え方を広げていきたい。中小企業同士が認め合い、たたえ合い、高め合う。そういう団体を作ることで、世の中にインパクトのある取り組みにしたいと思いました。

こうした問題意識から、武井さんは2012年に一般社団法人企業価値協会を設立。中堅・中小企業が持つ独自の価値を発見し、社会に伝えていく取り組みを始めました。 

まだ見えていない企業の価値に、光を当てる

企業価値協会の取り組みの中心にあるのが、企業が持つ特徴的価値を評価・認定する「企業価値認定」です。これまで全国各地で130社超を認定してきました。

同制度を通じて、中堅・中小企業が自社の独自性や強みを見つめ直し、世の中に伝わる形にしていくことを促しています。

中堅・中小企業には、社内に暗黙知として蓄積されている価値が少なくありません。独自の経営手法やビジネスモデル、経営理念、顧客や地域社会からの評価、技術、接客サービス、人材育成の方法など、その価値は多岐にわたります。しかし、それを自覚し、伝わる形にできていなければ、顧客や社会に届けることはできません。

企業価値協会が認定の対象とするのは、日本全国の中堅・中小企業です。その企業が持っている独自性やユニークネス、いわゆるバリュープロポジションを、自分たちで自覚することが大切だと考えています。

自覚していなければ、うまく伝えられません。社内に暗黙知として蓄積されている価値を、言葉やビジュアルなど、きちんと伝わる形にしていく必要があります。

社長はなんとなく認識していても、従業員には共有されていないケースもあります。そうなると、社外にも自社の価値が伝わらず、結果として価格だけで比較されやすくなってしまう。中小企業がコモディティ化を避け、生き残っていくためには、自分たちの独自性を認識することが欠かせません。

私たちは、そうした企業ならではの独自性を「特徴的価値」と呼んでいます。

取り組みとしては、大きく「発見」「広報」「進化」の3つがあります。まず「発見」では、認定制度を設けています。申請書類を書くこと自体が、自社の価値を発見するプロセスになるようにしています。

次に「広報」です。認定を受けた企業には認定証を授与し、希望に応じて認定マークも使えるようにしています。また、認定式ではメディア関係者と交流する機会も設けています。見つけた価値を社会に届けるためには、外に向けて発信していく接点づくりも欠かせません。

そして最後が「進化」です。価値は生き物なので、進化し続けなければなりません。申請は通年で受け付けていますが、認定して終わりではなく、3年に一度の更新審査を設けています。

企業活動には必ず競争があります。競合も創意工夫を重ねて進化していく中で、お客様や社会から支持され続けるためには、自社の特徴的価値も磨き続ける必要があります。特にこの進化の段階では、外の血が必要になります。

企業価値認定は、単に企業を評価するための制度ではありません。自社の価値を発見し、社会へ発信し、さらに進化させ続けるための仕組みでもあります。その循環の中で、企業が自社の可能性を捉え直すきっかけが生まれています。

中堅・中小企業こそ、「枠の外」に目を向けよ

企業価値協会の認定制度には、3年ごとの更新審査が設けられています。一度見つけた価値も、社会や顧客の変化に合わせて磨き続けなければ、やがて競争力を失ってしまう。そうした考えが、この仕組みの背景にあります。

企業価値協会が取り組む「発見」「広報」「進化」の中でも、武井さんが特に重要だと考えているのが、価値を進化させ続けることです。そのためには、自社や業界の内側だけで考えるのではなく、これまで当たり前とされてきたルールや慣習を問い直し、「枠の外」に目を向けることが欠かせないといいます。

企業価値協会で取り組んでいることは、私が生涯をかけてやりたいことでもあります。

これからは、ポスト資本主義に向かっていく時代だと思っています。その中で、世の中を動かしていくエンジンのひとつになりたい。そのために、私たちは「社会価値」という言葉を使っています。

社会課題に取り組みながら、新しい価値をつくっていってほしい。たとえば、地元の人口減少や技術継承の問題、地域や業界が抱える課題、社員のご家族に関わる障害や介護の問題など、身近なところにも社会課題はたくさんあります。

そうした課題に対して、自社が持っている技術や人材、設備、ネットワークといったリソースを使えないかを考えてほしいですね。自社のリソースと社会課題、さらにAIなどのテクノロジーを掛け合わせることで、新しい価値が生まれる可能性があります。

そのときに大事なのが、「枠の外」を見ることです。業界の中で当たり前とされてきた見えないルールや掟のようなものは、どの業界にもあります。なかには、社会規範のように扱われているものもある。

でも、今の環境やテクノロジーを前提にすると、本当にそれは正しいのかと問い直せることがあります。たとえば、「一度勤めた会社には定年まで勤めるものだ」という考え方も、かつては当たり前でしたよね。

同じ会社や同じ業界の中にいると、どうしても思考の枠ができてしまいます。だからこそ、別の視点で捉え直すことが必要です。昔から「ヨソモノ・バカモノ・ワカモノ」と言いますが、特に「ヨソモノ」の視点はとても大切だと思います。

外部の人材や異なる分野の人と接することで、自社をメタ認知できる環境が生まれます。多面的にものを見ることで、自分たちだけでは気づけなかった価値や、誰も見ていなかった市場が見えてくることもあるのです。

実は市場があったけれど、これまでは解決できなかった。けれど、今のテクノロジーなら解決できる。そういう領域は増えていると思います。

新しい価値を生み出すために必要なのは、必ずしも大きな変革だけではありません。自社の当たり前を見つめ直し、社会の変化や外部の視点を取り入れながら、小さな試行錯誤を重ねていくことも、企業を進化させる力になります。

必ずうまくいく経営などありません。だからこそ、たくさん試していくことが必要です。

その繰り返しの中で、少しずつ、ときには大きく変化していく。新しい価値をつくり続けることで、会社や事業は新陳代謝しながら、長く続いていくのだと思います。

中堅・中小企業には、まだ見えていない価値が眠っています。その価値を見つけ、伝え、進化させていくためには、自社の内側だけで完結しない視点が欠かせません。

「枠の外」に目を向けること。外部の視点と出会い、自社の当たり前を問い直すこと。

その選択が、これからの中堅・中小企業にとって、次の価値を生み出すきっかけになっていくのではないでしょうか。

取材対象者プロフィール

武井 則夫(たけい のりお)
一般社団法人企業価値協会 代表理事
株式会社リアルM 代表取締役
株式会社PrimaryTouch CMO

1970年、東京都青梅市出身。早稲田大学卒業後、早稲田大学大学院商学研究科修士課程を修了。三菱レイヨン(現:三菱ケミカル)に入社し、化繊製造工場や海外営業部門を経験する。その後、日本経営合理化協会に入協。セミナー企画の最前線で、数多くの経営者や一流コンサルタントと交流を重ねた。

教育課長、教育部長、理事、経営研究所所長を歴任し、2009年にコンサルタントとして独立。株式会社リアルMの代表に就任する。2012年には一般社団法人企業価値協会を設立。代表理事として、中堅・中小企業が持つ独自の価値を発掘し、世に広めるためのブランディング、増客、高付加価値化の支援に取り組んでいる。

著書に『選ばれる理由』(現代書林)、『「価値」で選ばれる経営』(PHP研究所)、『お金だけでは計れない価値をつくりだす企業』『お金だけでは計れない価値をつくりだす企業2』(いずれもダイヤモンド社)がある。共著に『社長学全集 事業発展計画書の作り方』(日本経営合理化協会)。

取材・執筆:武田 直人 / 撮影:山中 基嘉  

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