


1つの会社に勤め、1つの仕事で収入を得る。そんな働き方の前提が、少しずつ揺らいでいます。正社員の仕事に業務委託を組み合わせたり、複数の会社の仕事を並行して受けたりと、仕事を「1つに絞らない」人が増えてきました。こうした働き方は、海外でポリワーク(polywork)と呼ばれています。
米国では、複数の仕事を持つ人の割合が2025年に5.4%と、コロナ禍の2020年(4.5%)から大きく上昇しました。日本でも、副業を持つ人は2022年時点で305万人と、5年前より60万人増えています。
この記事では、ポリワークの意味、副業やパラレルキャリアとの違い、広がっている背景を国内外のデータで整理したうえで、働く側の注意点と、企業がポリワーク人材をどう活かせばよいかを解説します。
ポリワーク(polywork)は、「複数の」を意味する接頭語 poly- と、work(仕事)を組み合わせた言葉です。1人が複数の仕事を同時に持ち、それらを組み合わせて働くことを指します。ポリワークを実践する人はポリワーカー(polyworker)と呼ばれ、日本語では「多職者」と訳されることもあります。
英語圏では、動詞の形で「ポリワーキング(polyworking)」とも言われます。リモートワークが広がった2020年代に入ってから、主に米国や英国のメディアで使われるようになった比較的新しい言葉です。
ポリワークには、次の3つの特徴があります。
ただし、海外でも定義には幅があります。「複数のフルタイムの仕事を持つこと」に限定して使う記事もあれば、単発の仕事やギグワークまで含める記事もあります。調査によって数字が大きく違うのはこのためで、データを見るときは何を「複数の仕事」と数えているかを確認する必要があります。
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ポリワークと似た言葉はいくつかあります。違いは「仕事の間の関係」と「会社に知らせているか」で整理すると分かりやすくなります。
つまりポリワークは、副業のように「本業ありき」ではなく、オーバーエンプロイメントのように「隠れて掛け持つ」ものでもない、という位置づけです。オーバーエンプロイメントの実態と企業のリスクについては、オーバーエンプロイメント(Overemployment)とは何かで詳しく解説しています。
米国労働統計局(BLS)の人口動態調査(CPS)によると、就業者のうち複数の仕事を持つ人の割合は、2020年の4.5%から、2021年4.6%、2022年4.8%、2023年5.0%、2024年5.2%と毎年上がり、2025年には5.4%に達しました。コロナ禍前の2019年(5.1%)も上回っています。
求人サイトのIndeedの調査部門であるHiring Labは、2026年6月の分析で、2025年10〜12月にIndeedで応募した求職者のうち約16%が、すでに複数の仕事を持っていたと報告しています。職種では飲食サービスが最も多く、応募の行動からは「余裕のある副収入」というより、家計の必要に迫られた掛け持ちが多いと分析しています。
日本でも同じ方向の変化が見られます。総務省の「令和4年就業構造基本調査」(2022年)によると、農林業以外で働く人のうち副業を持つ人は305万人で、2017年から60万人増えました。今の仕事を続けながら別の仕事もしたいと考える「追加就業希望者」は493万人で、こちらは93万人増えています。
同じ調査では、本業がフリーランスの人が209万人、副業としてフリーランスの仕事をしている人が48万人いることも分かっています。雇われる仕事と、フリーランスとして受ける仕事を組み合わせる下地は、すでに整いつつあります。
背景には、次の3つの変化があります。
ひとくちにポリワークといっても、組み合わせ方にはいくつかの型があります。
正社員として1社に勤めながら、別の会社の仕事を業務委託で受ける形です。日本で最も始めやすい型で、会社員としての安定を保ったまま、別の業界や役割の経験を積めます。
正社員の仕事を持たず、2〜4社程度の仕事を業務委託で並行して受ける形です。事業開発やマーケティング、経営企画のように、週1〜2日の関わりでも成果を出しやすい職種で多く見られます。
経営者や役員の経験を持つ人が、複数の会社の顧問や社外役員を兼ねる形です。経営レベルの役割を週に数日ずつ担うフラクショナルCxOも、この型に近い働き方です。
自分の事業を育てながら、生活の土台として受託の仕事を持つ形です。AIを使って1人で事業を回すソロプレナーも、立ち上げの時期はこの型をとることがあります。
ポリワークの一番のメリットは、収入源が1つに偏らないことです。1社の業績や方針の変化で、収入がゼロになるリスクを減らせます。
もう1つは、経験の幅が広がることです。業界や会社の規模が違う仕事を並行して持つと、1社にいるだけでは得にくい知見や人脈が手に入ります。ある会社で得た知見を別の会社で活かす、という循環が生まれるのもポリワークの強みです。
日本では、労働基準法38条により、複数の会社に雇われている場合、労働時間は通算して扱われます。合計が法定労働時間を超えると、割増賃金の支払いが必要になるなど、会社側の管理の負担が増えます。2つ目の仕事も雇用契約で始めようとすると、受け入れてもらいにくい理由の1つがここにあります。
一方、業務委託やフリーランス、顧問として受ける仕事は、労働時間の通算の対象になりません。正社員の仕事に別の仕事を組み合わせる場合、2つ目以降を業務委託にすると、双方の会社にとって扱いやすくなります。
同じ業界の会社の仕事を並行して受ける場合は、就業規則や契約書の競業避止・秘密保持の条項を必ず確認します。ポリワークは「公にして行う」ことが前提です。勤務先への届出を省いたり、競合関係を伏せたりすると、オーバーエンプロイメントと同じ問題を抱えることになります。
海外の記事でも繰り返し指摘されているのが、燃え尽き(バーンアウト)のリスクです。仕事が増えるほど、締め切りや会議が重なり、休む時間が削られがちです。仕事ごとに週何時間までと上限を決め、引き受ける前に合計の稼働を確認しておくことが欠かせません。仕事のペースを意図的に落とす期間をつくる考え方としては、マイクロリタイアメントも参考になります。
会社員が別の仕事で得た所得が年間20万円を超える場合は、原則として確定申告が必要です。業務委託の報酬は、経費を差し引いた所得で判定します。収入が複数の会社に分かれる分、請求や入金の管理も自分で行う必要があります。
企業の側から見ると、ポリワーカーは「必要な専門性を、必要な分だけ借りられる人材」です。正社員として採るほどの業務量はないが、外注先に丸ごと任せるには事業の中核に近すぎる。そんな役割を、週1〜2日の関わりで担ってもらえます。
人材の確保手段を「育てる(Build)」「採る(Buy)」「借りる(Borrow)」「引き留める(Bind)」の4つで整理する戦略的人材計画(SWP)の考え方でいえば、ポリワーカーの活用は「借りる」の代表的な形です。新規事業の立ち上げのように、続くかどうか分からない役割から試すのに向いています。
ポリワーカーに仕事を頼むときは、次の点を最初に決めておくと、後のずれを防げます。
自社の社員が外で仕事を持つことを認めるかどうかも、企業にとっての論点です。届出制にして業務の内容と稼働を把握しておけば、競合への情報流出や長時間労働のリスクは管理できます。社外での経験を本業に持ち帰ってもらえることや、優秀な人材の離職を防げることを考えると、一律に禁止するより、条件をつけて認めるほうが得るものは大きいと言えます。
外部のプロ人材を探せるサービスの違いは、副業・プロ人材サービス14選で比較しています。
ポリワーク(polywork)は、1人が複数の仕事を主従をつけずに組み合わせる働き方です。副業のように本業ありきではなく、オーバーエンプロイメントのように隠れて掛け持つものでもない点が特徴です。 米国では複数の仕事を持つ人の割合が2025年に5.4%まで上がり、日本でも副業を持つ人は305万人、希望者は493万人に増えています。働く側にとっては収入源の分散と経験の幅というメリットがある一方、労働時間の通算、競業避止、燃え尽きといった注意点もあります。 企業にとってポリワーカーは、正社員採用と外注の間にある「必要な専門性を必要な分だけ借りる」選択肢です。期待する成果と稼働量、情報の扱いを最初に決めておけば、事業の立ち上げや変化の大きい局面で、心強い戦力になります。
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