


本メディア『月刊タレンタル』でもたびたび取り上げているように、近年「ソロプレナー」という働き方が注目を集めています。
ソロプレナーとは、「起業家」を意味するアントレプレナー(Entrepreneur)に、「ひとり」を意味するソロ(Solo)を組み合わせた造語で、従業員を雇わず、ひとりでビジネスを運営する起業家を指します。
生成AIやクラウドサービスの進化により、少人数でも事業を立ち上げられる環境が整いつつある今、ソロプレナーという働き方は、新しいキャリアの選択肢として注目を集めています。
今回取材するのは、2024年6月にrimad株式会社を創業し、わずか1年3カ月でM&AによるEXITを実現した大野 克也(おおの かつや)さん。
驚くべきことに、rimad株式会社には正社員はおらず、代表である大野さんと、数名の業務委託パートナーのみというスモールチーム体制。それにもかかわらず、事業をスピーディーに成長させ、最終的には東証グロース上場企業へ2億円超での売却という実績を築き上げました。
まさに、ソロプレナーとしての生き方を体現している大野さん。今回のインタビューでは、事業立ち上げの背景やソロプレナーという働き方の魅力、そしてこれからの挑戦についてお話を伺います。

大野さんが新卒で入社したのは、不動産テック事業を手がけるリビン・テクノロジーズ。不動産メディアの営業職として、不動産会社やビル管理会社などに向けた営業活動に従事しました。
その後、Webマーケティングのコンサルティング企業へ転職。ディレクターとして住宅リフォームや工務店の新規出店に向けたリサーチから、マーケティング支援までを幅広く担当します。
2016年には、SaaS比較サイト「ボクシル」を運営するスマートキャンプに入社。営業統括として、KPIの策定・管理や営業組織のマネジメント、評価、採用といった事業責任者の役割を担いました。また、同社の新規事業立ち上げにも携わり、スタートアップならではの事業成長フェーズを経験します。
不動産や住宅リフォーム、そしてSaaSといったバーティカル領域のWebメディアにおいて、法人営業からマーケティング、さらにはサイト運営まで、幅広い職務を経験してきた大野さん。
これらの経験が、後のソロプレナーとしてのスキルの土台を築くことになりました。

これらの経験を活かし、2024年6月にrimad株式会社を設立した大野さん。従業員を雇わずに事業の拡大を目指すソロプレナーという働き方を選んだ背景には、どのような思いがあったのでしょうか。
前職でも営業統括という立場で、チームのマネジメントを担当していました。ただ、正直なところマネジメントが得意とは言えず、組織やチームに向き合うことがあまり好きではなかったんです。
一方で、事業を考えたり、数値を見ながら改善点を探していくようなことはとても好きで。自分の力で事業を動かしていくことに、やりがいを感じていました。
実は、過去に働きすぎて体調を崩し、半年間休職した経験もあります。そのこともあって、マネジメントを担わず、自分自身で仕事のボリュームをコントロールしながら、なおかつ事業づくりに集中できる働き方を模索していました。
当時はまだ「ソロプレナー」という言葉は一般的ではありませんでしたが、ひとりで起業するという選択は、ある意味“消去法”で導き出した答えだったのかもしれません。

ソロプレナーとして起業することを決意した大野さんが、次に考えたのは「どんな事業を行うか」という点です。
そして、大野さんの事業開発アプローチの秀逸さは、まさにこの部分に表れているといえるでしょう。
最終的には、rimadでファクタリング会社の口コミ・比較サイト「ファクログ」を立ち上げましたが、実はその前にいくつかのアクションを起こしています。
最初に立ち上げたのは、「フリマド」というアフィリエイトメディアでした。
このメディアは「フリーランスのよりどころになる」というコンセプトで、「フリーランスエージェント」「Webデザインや動画編集スクール」「ファクタリング」という、大きく3つのジャンルのサービスに送客し、成果報酬型で収益を得るモデルです。
サイト自体は、自分ひとりでWordPressを使って簡易的に立ち上げました。どのジャンルに事業としての拡大性があるかを見極めるための、テストの位置づけです。
この時点で、アフィリエイト収益が月10万円に届かなければ起業は見送ろうと、明確な撤退ラインも設定していました。
ありがたいことに、このメディアからは月30〜40万円ほどの安定した収益が得られるようになり、その中でも特にコンバージョン率(CVR)が高かったファクタリング領域に、拡大の可能性を見出しました。それをきっかけに、rimad株式会社を設立し、「ファクログ」のリリースに至ったという流れです。
多くの方は、起業してから事業化の可能性を検証されると思いますが、むしろ法人化する前に検証を行うことが、リスクを最小限に抑えるという点で、とても有効だと考えています。

大野さんが、数あるビジネスの中からファクタリング市場を選んだ理由について、もう少し深掘りしてみましょう。
もともと、ファクタリングという分野について詳しかったわけではありません。ただ、ASP(アフィリエイト・サービス・プロバイダー)が提供している情報を見ながら、BtoB領域で、送客単価が高い分野を中心にリサーチしていたところ、この市場にたどり着きました。
ファクタリング市場で事業展開しようと判断した理由は、大きく3つあります。
まずひとつ目は、「市場自体が伸びている」こと。次に、「ニッチなポジションでNo.1が狙える可能性がある」こと。そして3つ目が、「主要な顧客数が限られている」ことです。
特に最後のポイントは、ソロプレナーとして事業拡大を目指す上で、非常に重要です。
顧客が大量かつ分散している領域では、広い営業網の構築が成功の鍵になります。しかし、それは組織を持たないソロプレナーにとっては高いハードルになります。
一方で、ファクタリング市場はまだ黎明期にあり、事業者数も数十社程度と限られています。この「顧客数の少なさ」こそが、僕にとっては成功要因として非常に大きかったと感じています。

巧みな市場選定が功を奏し、創業から1年が経つ頃には、月商1,000万円の大台を突破するまでに成長した「ファクログ」。
そして2025年9月、rimadは東証グロース上場企業であるアイズ社に、2億円超の金額で売却(M&A)することとなりました。
このわずか1年3カ月の間に起きた一連の出来事を振り返りながら、改めて、大野さんが当時どのようにリスクを捉え、どのような想いで起業に踏み切ったのかについて、お話を伺いました。
スタートアップで営業統括やマーケティング、新規事業開発に携わった経験もありましたから、たとえ起業がうまくいかなかったとしても、転職先は見つかるだろうとある程度の見通しは持っていました。
また、最近では国や自治体がスタートアップ支援を強化しており、融資を受ける際にも個人保証が不要な制度が増えています。
実際に僕も、日本政策金融公庫やプロパー融資などを活用し、総額で2,000万円の借り入れを行いましたが、そのうち1,600万円は個人保証なしで借りられました。
さらに、従業員を雇わないソロプレナーであれば、固定費がほとんどかからないという点も大きなメリットです。
合理的に考えても、起業に伴うリスクは非常に小さいと感じていました。むしろ、挑戦せずにあきらめてしまうことのほうが、自分のキャリアという観点ではよほどリスクが大きいと考えたんです。

サービス売却から数カ月が経ち、現在は新たに会社を設立し、次の挑戦へと歩みを進めている大野さん。
今回の起業でも、前回と同様にソロプレナーという手法を選択し、その再現性を確かめたいと語ります。
そんな大野さんに、これからソロプレナーとしての起業を検討している方々へ向けて、メッセージをいただきました。
会社に属していると、その組織のなかで評価されるために、自分の「できないこと」を乗り越える努力が求められます。
でも、人には誰しも得意・不得意があって、それはごく自然なことだと思っています。
個人で成果を出すのが得意な人もいれば、チームをマネジメントすることに強みを持つ人もいる。0→1を生み出すことに情熱を注げる人もいれば、1→10や10→100に手応えを感じる人もいます。
もちろん、できないことを無理にでも乗り越えようとする努力は、決して否定されるべきものではありません。
でも、それ以上に大切なのは、自分が「できること」や「好きなこと」にもっと集中して、磨いていくことではないでしょうか。
ソロプレナーという働き方は、それを実現するための手段として、とても優れた選択肢だと感じています。
「本当のリスク」が何なのかをしっかり見極めた上で、たとえ小さなチャレンジからでも構いません。まずは一度、打席に立ってみてほしいと思います。

大野 克也(おおの かつや)
reslog株式会社 代表取締役
2014年4月、不動産テック事業を手がけるリビン・テクノロジーズに新卒で入社し、営業職としてキャリアをスタート。その後、Webマーケティングのコンサルティング企業を経て、2016年よりスマートキャンプへ参画。SaaS比較サイト「ボクシル」の営業統括や新規事業の立ち上げを担当し、同社の成長を牽引した。
並行して、副業としてアフィリエイトメディアの立ち上げにも取り組み、2024年6月にはrimad株式会社を設立。ファクタリング会社の口コミ・比較サイト「ファクログ」を立ち上げ、2025年9月には、創業からわずか1年3カ月という早さで、東証グロース上場企業・アイズ社へ株式を譲渡(M&AによるEXIT)した。
現在は、reslog株式会社の代表取締役として、新たなメディアの構築に取り組んでいる。
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