


CVC(コーポレートベンチャーキャピタル)を立ち上げる日本企業は増え続けています。一方で、設立から数年が経ち「投資はしているが、事業に何も返ってきていない」という声も同じだけ増えました。
成功事例を探すと、投資実績の一覧に行き当たることが多いはずです。ただ、CVCの成否を分けるのは投資件数ではありません。投資した先が、自社の事業にどう接続されたかです。そこが設計されていないと、年数が経つほど活動は形骸化していきます。
この記事では、一次情報で確認できた国内の事例に絞って、コーポレートベンチャリングが機能した形を具体的に見ていきます。あわせて、多くのCVCがつまずく理由と、始める前に決めておくべきことを整理します。掲載しているのは、企業の公式発表と大手報道で裏付けが取れた事実のみです。
まず用語を整理します。混同されたまま議論すると、手段の選択を誤ります。
つまり、CVCを作ることは目的ではありません。目的は事業機会の獲得であり、CVCはそこに至る経路の1本です。
コーポレートベンチャリングは、おおむね次の4つに分かれます。
以下で見る2社は、このうち異なる型で成果を出しています。自社に合う型を選ぶことが最初の分岐点です。なお、資本を入れずに中核人材と技術だけを取り込むという新しい型も生まれています。リバース・アクハイヤーを解説した記事もあわせてご覧ください。
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国内で最も明確に成果が可視化された事例です。
ソラコムは2014年設立の、IoT向け通信プラットフォームを提供するスタートアップです。KDDIは2017年8月、同社の株式を取得する契約を締結し、連結子会社化しました。買収額は約200億円と報じられています。
そして2024年3月26日、ソラコムは東京証券取引所グロース市場に新規上場しました。KDDIはこれを「スイングバイIPO」と呼んでいます。大企業グループの信用力と資産を推進力として使い、加速したうえで再び独立軌道に乗せる、という考え方です。
上場時の公開価格は870円、初値はその約1.8倍にあたる1,563円をつけ、終値ベースの時価総額は578億円となりました。
投資額に対するリターンが出たから、ではありません。3つの成果が同時に得られている点が重要です。
ソラコムのIoT通信基盤は、KDDIの法人事業と直接つながる領域にありました。出資して様子を見るのではなく子会社化したことで、事業への反映が早く進みました。
買収後に組織を吸収してしまえば、成長は鈍化します。ソラコムは傘下に入った後も独立した経営を維持し、2018年にはKDDIのCVCであるKDDI Open Innovation Fundの投資プログラムに参画しました。買収された側が、今度は投資する側に回っています。
傘下に置き続けるのではなく、再上場という出口を用意しました。これによりスタートアップ側の経営陣と従業員にも報いる形が作られています。買収がキャリアの終点にならない構造は、次の買収案件でも効いてきます。
こちらは対照的に、数を回して接点を作り続ける型です。
JR東日本は2018年2月、コーポレートベンチャーキャピタルの新会社として「JR東日本スタートアップ株式会社」を設立しました。同社は出資に加えて、公募型の「JR東日本スタートアッププログラム」を運営しています。
このプログラムは2017年度に始まり、2025年春の時点で累計168件の提案を採択しています。2025年秋の回では191件の応募から7件を採択しました。
さらに2024年11月には、地域課題に取り組むスタートアップを対象とする「JR東日本ローカルスタートアップ投資事業有限責任組合」を組成しました。運用規模10億円、運用期間20年という設計です。同社は2024年2月にシンガポール拠点のCVCも設立しています。
注目すべきは運用期間20年という数字です。一般的なベンチャーファンドの運用期間は10年前後で、これは投資先の成長速度に合わせた設定です。それを20年に置いているということは、財務リターンの回収を主目的にしていないことを意味します。
鉄道という事業は、駅・沿線・地域という動かせない資産の上に成り立っています。その資産価値を高める取り組みは、10年では完結しません。ファンドの期間設計に、事業の時間軸が反映されているわけです。
CVCの設計は、金融の型をそのまま持ち込んでも機能しません。自社事業の時間軸と、投資回収の時間軸を合わせる必要があります。また、公募プログラムという形は、出資に至らない相手とも接点を作れる点で、母数を確保する仕組みとして機能しています。
ここからは、成功事例の裏側です。
経済産業省は日本ベンチャーキャピタル協会とともに、国内のCVCおよびスタートアップM&Aの実態調査(「我が国のコーポレートベンチャリング・ディベロップメントに関する調査研究」)を実施し、報告書を公開しています。また日本経済新聞は、日本企業のCVC投資額が急増する一方で、設立から年数が経つにつれて問題を抱えるCVCが増えていること、親会社との戦略的整合性を欠いた投資に終始している例が目立つことを指摘しています。
実務上、つまずきは次の3点に集約されます。
ファンドを組成すると、投資件数が活動の指標になります。件数は測りやすく、報告もしやすいためです。しかし件数は事業に何が返ってきたかを何も語りません。目的が手段にすり替わる典型です。
CVCの担当者が投資判断を行い、事業部門は関与しない。この構造だと、投資先と事業部門をつなぐ人が誰もいません。接続は自然には起きず、担当者を置いて設計しなければ生まれません。
スタートアップが成果を出すには年単位の時間がかかります。一方、親会社側の担当者は数年で異動します。投資の意思決定をした人が、成果が出る頃にはいない。この不一致が、継続的な支援を難しくします。
CVCやコーポレートベンチャリングの検討に入る前に、次の項目を言語化しておくと、形骸化のリスクを大きく下げられます。
このうち最も飛ばされがちなのが撤退基準です。判断軸の作り方は新規事業の撤退基準を扱った記事で詳しく解説しています。また、自社の資産を外部に切り出して成長させる手法についてはカーブアウト・ベンチャーの記事、その基本形の整理はカーブアウト・スピンアウト・スピンオフの違いの記事が参考になります。投資家として企業価値向上に関与する形についてはエンゲージメント・ファンドの記事もあわせてご覧ください。
CVCの成功事例として本記事で取り上げたのは、KDDIとJR東日本の2社です。KDDIはソラコムを約200億円で子会社化し、傘下で成長させたうえで2024年に再上場(スイングバイIPO)させました。JR東日本はCVC子会社と公募プログラムで接点の母数を確保し、地域ファンドでは運用期間を20年に置いています。
両社に共通しているのは、投資件数ではなく「事業とどう接続するか」を設計している点です。KDDIは事業の中核に近いからこそ買収を選び、JR東日本は地域という長い時間軸に合わせてファンド期間を設計しました。手段が目的から逆算されています。
一方で、多くのCVCは年数が経つにつれて形骸化していきます。原因は資金でも人材でもなく、目的・型・接続の担当者・時間軸・撤退基準を決めないまま始めてしまうことにあります。事例から学ぶべきは投資先の顔ぶれではなく、この設計の順序です。
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