


事業開発の現場では、新しいプロダクトやサービスが市場に受け入れられ、初期の成長を遂げる段階(一般に「最初の死の谷」を越えた段階)で、多くのビジネスパーソンが安堵します。
しかし、真の試練はその後、「第2の死の谷」として立ちはだかるものです。これは、急激なスケールアップの過程で、組織体制やオペレーションが追いつかず、成長が停滞・失速する現象を指します。
本記事では、この見えにくい成長の壁の本質を解き明かし、それを乗り越えるための具体的なBizDev戦略と、組織・人材の変革アプローチについて詳しく解説します。持続的な事業成長を目指す、全てのビジネスパーソンに必見の内容です。
「第2の死の谷」とは、プロダクトマーケットフィット(PMF)を達成し、初期の売上が順調に立ち上がった企業が直面する、「急激な成長に伴う構造的な停滞」のフェーズを指します。
スタートアップや新規事業は、最初のフェーズで「プロダクトがない」「顧客がいない」という課題を乗り越えました。しかし、第2の死の谷では「組織が成長に追いつかない」「オペレーションが非効率化する」「イノベーションの鈍化」といった、より複雑な問題が発生します。
特に、創業期や初期フェーズでの機動性や属人的な力で事業を回していた体制が、組織規模の拡大に伴いそのままでは機能しなくなることが大きな要因です。具体的には、意思決定の遅延、部門間のサイロ化(孤立化)、そしてカスタマーサクセスや品質管理(クオリティコントロール)の低下などが顕著になります。
このフェーズで、事業開発担当者は、短期的な売上を追うだけでなく、持続可能な成長のための「仕組みづくり」へと視点を切り替えなければなりません。属人的な力から、システムやプロセスによる再現性の高い成長へと、ビジネスモデル自体を「スケール対応型」に変革することが求められます。
第2の死の谷に陥る要因は主に3つあります。これらの兆候を見逃さず、早期に対策を打つことが極めて重要となります。
一つ目の要因は、「組織キャパシティの限界」です。
人員が急増しても、マネジメント層の育成や適切な評価制度が追いつかず、組織としての生産性が低下してしまうのです。現場は疲弊し、結果として優秀な人材の離職を引き起こすリスクが高まります。これは、特定業務におけるエラー率の増加や、意思決定のスピードが落ちるといった兆候となって現れます。
二つ目の要因は、「オペレーションの複雑化と非効率化」です。
初期はシンプルなプロセスで済んでいた業務が、顧客数や取引量の増加に伴い複雑化し、既存のシステムや手作業での対応では限界を迎えます。特に、SFA(Sales Force Automation)やCRM(Customer Relationship Management)の導入と運用が適切に行われていない場合、この非効率化は加速します。この問題は、顧客からのクレーム増加や、会議の数の増加にもかかわらず成果が出ないといった形で表面化しやすいでしょう。
そして三つ目が、「イノベーションのジレンマ」です。
既存事業の成功体験が強固になるほど、新しい市場やテクノロジーへの挑戦に対する組織の許容度が低下してしまいます。短期的な収益確保を優先し、本来事業開発部門が担うべき中長期的な種まきが疎かになりがちです。これにより、組織の活力が失われ、結果として成長の鈍化を招きます。
第2の死の谷を乗り越えるためには、属人的な「頑張り」に依存する体制から脱却し、「仕組み化」と「標準化」が不可欠です。事業開発担当者は、売上を最大化するだけでなく、ビジネスプロセスそのものの設計に深く関与しなければなりません。
ここで重要なのが、再現性の高い営業プロセスの構築です。成功した商談パターンや顧客への提案資料などをナレッジ化し、全メンバーがアクセスできる状態にすることで、組織全体のパフォーマンスを底上げします。
さらに、デジタルツールを活用したオペレーションの自動化も鍵となります。たとえば、リード獲得からナーチャリング、クロージング、そしてカスタマーサクセスに至るまでの全プロセスにおいて、マーケティングオートメーション(MA)やCRMをフル活用し、手作業での介入を最小限に抑えます。これにより、社員は定型業務から解放され、より創造的で付加価値の高い業務、すなわち新規顧客開拓や戦略的なアライアンス構築に集中できるのです。BizDev人材は、ただ事業を「動かす」のではなく、事業を「支えるインフラ」を構築する視点を持つことが求められます。
組織の急成長に伴い、既存の組織体制は必ず壁にぶつかります。この時期に最も必要とされるのが、「権限委譲と透明性の高いガバナンス」の確立です。
創業者が全てを把握し、意思決定していたスタイルから、各部門のリーダーに明確な責任と権限を委譲する体制へと移行しなければ、意思決定の遅延は避けられません。特に事業開発の現場では、市場の変化に迅速に対応するためのフラットで俊敏性の高い組織構造(アジャイル組織)が求められます。
また、求められる人材像も変化します。初期は「突破力」や「泥臭い実行力」が重要でしたが、成長期には**「抽象化能力」と「マネジメント能力」を兼ね備えた人材が不可欠です。具体的には、成功事例を抽象化してプロセスに落とし込む能力、部門を横断してプロジェクトを推進するファシリテーション能力**、そして若手メンバーを育成し、権限を委譲できるコーチング能力が求められます。BizDev担当者は、自らがそうした人材へと進化するとともに、組織全体でこれらのスキルを持つ人材を育成・採用する戦略を立てる必要があります。
「第2の死の谷」の根本的な解決策の一つは、「既存事業のスケールと並行した、次なる柱の創出」です。既存事業が成熟期に入り、成長率が鈍化する前に、新たな収益源となる新規事業の種を継続的に蒔き続ける体制が必要。
この役割を担うのは、まさにBizDev部門の最重要ミッションの一つといえるでしょう。既存事業にリソースを集中投下するあまり、中長期的な視点が失われ、結果として市場の変化に対応できなくなることが、多くの企業の失速原因となっています。
新規事業創出を継続するためには、組織内に「失敗を許容する文化」と「一定の予算とリソース」を確保することが重要です。特に、既存事業の売上が好調な時期であっても、全社の売上目標の一定割合(たとえば10%)を未来への投資として新規事業部門に充てるなど、戦略的なリソース配分が必要です。
BizDev担当者は、既存事業で得た顧客データや市場のインサイトを最大限に活用し、隣接領域や未充足ニーズを捉えた新規事業を、リーンスタートアップなどの手法を用いて迅速に検証・展開していくことが、持続的な成長を実現するための王道となります。
本記事では、事業成長の大きな壁となる「第2の死の谷」について、その本質から具体的な乗り越え方までを解説しました。この谷は、単なる資金不足ではなく、「組織キャパシティの限界」「オペレーションの非効率化」「イノベーションの鈍化」という、成長に伴う構造的な問題によって引き起こされます。
この難局を乗り切る鍵は、BizDev戦略における「仕組みづくり」と「戦略的な組織変革」です。属人的な力に頼るのではなく、再現性の高いプロセスを標準化し、デジタルツールによる自動化を進めること。そして、成長に必要な権限委譲と、次なる事業の柱を生み出し続ける体制を構築することが重要です。この視点を持つことで、貴社は一時的な成功に終わらず、持続的な成長を実現し、市場において確固たる地位を築くことができるでしょう。
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