


事業開発(BizDev)の現場では、パートナー企業との契約交渉が日常的に発生します。しかし、リーガルリテラシーが十分でないまま交渉のテーブルに着くと、自社に不利な条件を見過ごしたり、後から重大なトラブルに発展したりするリスクを抱えることになります。本記事では、BizDev担当者が最低限押さえておくべき契約交渉の要点を、NDA・業務委託契約・レベニューシェア契約の3つの類型に分けて具体的に解説します。
BizDev担当者にリーガルリテラシーが求められる最大の理由は、契約交渉の初期段階で事業上のリスクと機会が同時に決定されるからです。
法務部門に契約書の最終チェックを依頼する企業は多いものの、交渉のテーブルに着くのはBizDev担当者自身です。相手方から提示されたドラフトの条項を正確に読み解けなければ、本来修正すべきポイントを見落としたまま合意に至る可能性があります。たとえば、競業避止義務の範囲が広すぎる場合、自社の将来の事業展開を著しく制約してしまうリスクがあります。このような条項は、法務部門に回す前の段階でBizDev担当者が気づき、交渉の論点として提起できる状態が望ましいといえます。
加えて、近年はスタートアップ同士の提携やオープンイノベーションの案件が増加し、契約交渉のスピードが求められる場面が多くなっています。法務部門の確認を待つだけでなく、BizDev自身が論点を整理して素早く対案を出せるかどうかが、ディールの成否を左右する場面も少なくありません。リーガルリテラシーは、法律の専門家になることではなく、交渉における判断力と対応速度を高めるためのビジネススキルです。
NDAは契約交渉の最初のステップとして軽視されがちですが、実はBizDevが最も慎重に確認すべき契約書のひとつです。
1つ目の落とし穴は「秘密情報の定義範囲」です。相手方のドラフトでは、口頭で伝えた情報もすべて秘密情報に含めるケースがあります。この場合、何が秘密情報に該当するか事後に争いが生じやすくなります。書面またはメールで「機密」と明示した情報に限定する旨の条項を盛り込むことが、紛争予防の観点から有効です。
2つ目は「秘密保持義務の存続期間」です。NDAには通常、契約終了後も一定期間にわたって義務が継続する条項が設けられますが、この期間が不当に長い場合には、自社が不必要な制約を受け続ける結果となります。業種や情報の性質に応じて、1年から3年程度を目安に交渉するのが一般的な実務感覚です。
3つ目は「情報の返還・廃棄義務」です。契約終了時に秘密情報をすべて返還または廃棄する義務が課される場合、バックアップデータやクラウドストレージ上の情報まで対象に含まれることがあります。技術的に完全な廃棄が困難な場合は、合理的な範囲で対応する旨をあらかじめ明記しておくことが実務上のリスク軽減策となります。
業務委託契約は、BizDevがパートナー企業や外部専門家と協業する際に最も頻繁に締結する契約類型です。交渉の核心は、成果物の権利帰属と責任範囲を明確に定めることにあります。
まず確認すべきは「知的財産権の帰属」です。委託先が作成した成果物の著作権や特許を受ける権利が、委託元に移転するのか、委託先に留保されるのかは、事業戦略に直結する論点です。たとえば、開発を委託したソフトウェアの著作権が委託先に残る契約では、自社が自由に改変・再利用できない状況が生じます。BizDev担当者は、成果物を将来どのように活用したいのかを明確にしたうえで、権利帰属の条項を交渉する必要があります。
次に重要なのが「瑕疵担保責任(契約不適合責任)」の範囲です。納品された成果物に不具合があった場合、委託先がどこまで修正に応じるか、その期間と範囲を具体的に定めておくことが不可欠です。曖昧なままにすると、品質に問題が見つかった際の対応をめぐって交渉が長期化するおそれがあります。
さらに、再委託の可否と条件も見落とせません。委託先が第三者にさらに業務を再委託する場合、情報管理や品質管理のリスクが拡大します。再委託を認める場合でも、事前承諾を要件とする条項を入れることで、自社の管理可能性を維持できます。
レベニューシェア契約は、パートナーと売上を分配する仕組みであり、BizDevにとって事業拡大の有力な手段です。しかし、配分条件や撤退ルールの設計を誤ると、利益よりもコストが上回る事態に陥りかねません。
交渉の最優先事項は「収益配分の算定基準」を明確にすることです。売上総額に対する割合なのか、コスト控除後の粗利に対する割合なのかによって、実際の手取り額は大きく変わります。さらに、売上の計上時期や集計方法についても双方で合意しておかないと、月次の精算で認識のずれが生じる原因になります。契約書にはできる限り計算式レベルで記載し、解釈の余地を最小化することが望ましいです。
もうひとつ見逃せないのが「最低保証(ミニマムギャランティ)」の有無です。レベニューシェアは成果連動型であるため、想定どおりの売上が立たなければ収益がほぼゼロになるリスクがあります。自社側のコスト負担が先行する場合は、最低保証額を設定する交渉を行うことで、リスクの下限を管理できます。
そして、契約の終了・撤退条件は、締結前に必ず取り決めておくべき項目です。一定期間の売上目標を下回った場合の契約解除権、解除後の顧客引き継ぎルール、残存する権利義務の処理など、出口戦略を契約段階で明文化しておくことが、長期的な事業リスクの低減につながります。
リーガルリテラシーを身につけたBizDev担当者が次に目指すべきは、法務部門との連携を組織的に強化し、契約交渉の精度とスピードを同時に向上させることです。
最も効果的なアプローチは「契約交渉の論点整理シート」を活用することです。BizDevが交渉で確認した相手方の要望、自社にとってのリスク、譲歩できる範囲と譲歩できない条件を一覧にまとめ、法務部門へ共有します。法務担当者は案件の背景やビジネス上の優先順位を理解したうえでレビューできるため、的外れな修正提案が減り、確認のやり取りにかかる時間が大幅に短縮されます。
また、過去の契約交渉から得た教訓をナレッジとして蓄積する仕組みも有効です。どの条項でどのような修正が入ったか、相手方の反応はどうだったかといった情報をデータベース化しておくと、類似案件の交渉時に参照でき、属人的な経験に依存しない交渉が可能になります。
さらに、法務部門が開催する社内勉強会や契約書レビューの場にBizDev担当者が参加することも、実践的な学習手段として推奨されます。条項の読み方や修正の考え方を体系的に学ぶことで、交渉現場での判断の幅が広がります。リーガルリテラシーの向上は一朝一夕では達成できませんが、日々の業務の中で法務との接点を増やし続けることが、契約交渉力の底上げにつながります。
BizDevにとって契約交渉のリーガルリテラシーは、法律知識そのものではなく、事業上のリスクを察知し適切な判断を下すための実践的なスキルです。NDAでは秘密情報の定義と存続期間、業務委託契約では権利帰属と瑕疵担保責任、レベニューシェア契約では収益配分の算定基準と撤退条件が、それぞれ交渉の最重要ポイントとなります。法務部門との連携を仕組み化し、交渉の経験をナレッジとして蓄積していくことで、BizDevとしての契約交渉力は着実に向上していきます。
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