

近年、「レイオフ」という言葉が日本のニュースやSNSでも頻繁に登場するようになりました。とくに海外では、生成AIの急速な進化により、ホワイトカラー職のレイオフが加速しており、働き方やキャリア設計に不安を抱える人も増えています。しかし、そもそもレイオフという制度は日本には存在しません。
本記事では、レイオフの本来の意味と日本の雇用制度との違い、そしてAI時代におけるキャリアのリスクと備え方について解説します。
「レイオフ(Layoff)」とは、主にアメリカなどの国で使われる雇用関連の用語で、企業が経営上の理由により従業員を一時的または恒久的に解雇することを指します。
重要なのは、レイオフの対象者には業務上の問題がなく、あくまで企業都合による削減である点です。アメリカでは「Employment at will(随意雇用)」が一般的であり、雇用契約を自由に終了できる文化があります。そのため、企業は経営環境の変化に応じて柔軟に人員整理を行い、レイオフも特別なことではありません。
一方で、失業保険制度の整備や転職市場の流動性も高く、レイオフ後すぐに再就職することも多く見られます。
日本の労働市場には、アメリカ型の「レイオフ」に該当する法的制度は存在しません。
その理由は、日本の労働法が労働者保護を重視しているためです。企業が従業員を解雇する際には、「客観的に合理的な理由」と「社会通念上相当であること」が求められ、これらが満たされない場合には不当解雇と判断される可能性があります。
そのため、経営上の都合だけで即時に人員を削減することは極めて困難です。また、日本では終身雇用的な文化や雇用の安定性を重んじる傾向が強く、雇用の流動性が低いため、レイオフという概念が制度として根付かない土壌があります。
日本において「レイオフ的」な人員整理が行われる場合、その多くは「希望退職」または「整理解雇」という手段が用いられます。
希望退職は、企業が一定の条件を提示し、従業員に自発的な退職を促す仕組みで、退職金の上乗せや再就職支援がセットになっているケースが多くあります。
一方、整理解雇は企業の経営悪化などを理由に行われる解雇ですが、裁判例に基づく4つの条件(人員削減の必要性、解雇回避努力、合理的な選定基準、手続の妥当性)を満たす必要があります。
いずれも制度的には慎重かつ複雑なプロセスが求められるため、アメリカのようにスピーディなレイオフとは性質が大きく異なります。
近年、生成AIの登場により、アメリカではレイオフの対象がブルーカラーからホワイトカラーへと広がりを見せています。とくにテック企業を中心に、カスタマーサポート、マーケティング、データ分析、プログラミングなどの業務でAIの活用が進み、人員削減が相次いでいます。
企業は「AIで代替可能」と判断したポジションから順にレイオフを実施しており、これまで“知的労働”とされていた領域も安心できない状況です。こうしたトレンドは米国のみならず、イギリスやシンガポールなどの先進国にも広がっており、「AIによる人員最適化」が世界的な潮流となっています。
これまで説明したように、日本の労働制度上「レイオフ」という仕組みは存在しませんが、現実にはレイオフ的な人員削減が外資系企業やスタートアップを中心に行われており、今後もこうした動きが増える可能性があります。企業再編、資金調達難、AIによる業務最適化などを背景に、希望退職の募集や契約打ち切りなどが「レイオフに近いかたち」で進むケースが増えているのです。
このような環境下でビジネスパーソンが取るべき備えは、まず第一に、雇用契約や就業規則の内容を正しく理解することです。自身の雇用形態、解雇・退職に関する規定を把握しておくことで、急な打診にも冷静に対応できます。
そしてもう一つは、キャリアの主導権を自ら持ち続けることです。AIに代替されにくい専門性の獲得、成果の可視化と再現性のあるスキル設計、そして信頼できるネットワークの構築など、「市場価値の高い個人」としての立場を築くことが、変化の時代を生き抜く最も堅実な防御策であり、攻めの戦略でもあります。
日本には「レイオフ」という制度は存在しませんが、レイオフ的な人員削減はすでに一部で現実に行われており、今後も発生する可能性があります。まずは自身の雇用契約を理解し、制度的な防御を固めることが重要です。そのうえで、AI時代でも通用するスキルや実績を備え、キャリアの主導権を自ら握る準備を整えることが求められます。
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