クライアントの新規事業開発プロジェクトにおいて、どこで差別化するか?という議論が数多く発生します。もちろん当社自身も設立間もないフェーズの新規事業ですから、この議論の対象として十分該当します。
ここでいう差別化というのは、主に顧客となる企業・消費者を対象として語られることが多いわけですが、差別化できなければいけない、という考えに固執するのは、やや危険というか安直な気がしています。
もちろん顧客から見たサービスそのものが差別化できているのは理想形ではありますが、BtoB/BtoCを問わず、あらゆるポイントでサービスが乱立しコモディティ化している昨今、顧客にとってわかりやすい差別化ポイントを見出すのは非常に難しくなっており、そんな簡単にスイートスポットが見つかることはありません。かつ、環境変化が激しい時代において、その差別化要素はあっという間に模倣され、陳腐化するリスクを内包しています。
わかりやすい差別化ポイントがなくても、勝ち目はある
では、顧客となる企業や消費者から見たわかりやすい差別化ポイント、スイートスポットが見つからなければ事業として成立しないかというと、必ずしもそうではないというのが私の見解です。
たとえば人材紹介・人材派遣といったビジネスは、数十年前から多くの事業者が乱立するマーケットです。総合型もあれば特化型もあり、課金の方法もさまざまなバリエーションがあり、新規参入時におけるサービスとしての差別化は非常に難易度が高いわけですが、それでも参入は年々増え続けており、その中で大きな売上・利益へ成長している会社も多数あります。
オペレーション含めた総合力にこそ、差別化ポイントがある
AIをはじめとしたテクノロジーの進化により、マーケティングや顧客獲得および事業運営のオペレーションは大きな変革期にあります。
先に例にあげた人材紹介・人材派遣においても、求職者獲得の仕組みや求人企業開拓のコスト構造、オペレーションにおけるAI活用など、一見特に独自性のないビジネスモデルであったとしても、内部の運営構造、すなわちP/Lで見た際の販管費明細にこれまで以上に企業ごとの特徴や差異が表れてくるようになると考えています。これまで粗利率が低くスモールビジネスやスタートアップでは避けられてきたような領域でも、実質的に無人やごく少数で経営されていることで高い営業利益率を出し、魅力的な事業へと進化する、なども起こりえるのではないでしょうか。ここが、見えない競争優位性となり、結果として差別化ポイントになりえるところかと思います。
強い事業運営・組織運営のオペレーションを作り、そこで勝ち残っていく。あらゆる領域でサービスと技術がコモディティ化する中で生き残っていく事業や企業とは、こうした表層的には見えにくい差別化要素を持っているところではないかと思います。
talentalのビジネスモデルも、自社でオウンドメディアを有し、そこで集客した企業や人材をデータベースとして保持し、そこに対してマッチングを行っていくという、極めてシンプルなものであり、類似事業者も多い環境下でそこまで両サイドに向けて差別化できているサービスだとは思っていません。ただし、これを成立させるプロセスとオペレーションについては、外からは見えないものの、独自性のある切り口になっていると思います。また、この基盤を軸にどう付加価値をこれから追加していくかで、別の優位性を生み出せるという思惑もあります。
新規事業における差別化を考える際には、必ずしも表層的な差別化ポイントにこだわることなく、事業運営全般を見据え、どこで競争優位性を構築するのか、P/LやB/Sのどこで「強さ」を出すのか、このあたりをしっかり考えるようにしたいと思っています。